【貸金庫はやっかい】
「公証人のせいでひどい目にあったから、あそこの公証人役場では遺言書作りたくない」
数年前のことですが、遺言作成のご相談をいただいた方が怒り心頭といった感じでお話しされました。
なんでも、ご相談者の親が公証人役場で遺言書を作ったけど、貸金庫のことについて遺言書に記載がなかった。
そのため、遺言書では貸金庫を開けることができず、弁護士に依頼して貸金庫を開けてもらった、とのこと。
貸金庫は少し特殊です。
銀行の貸金庫の契約者が死亡した場合、貸金庫を開けるためには、基本的に、相続人全員の印鑑証明書付き同意書または承諾書を提出する必要があります。
相続人全員の協力が得られないと、貸金庫を開けることができない。
このことは、遺言書を作成する際にも考慮が必要です。
つまり、遺言者が銀行の貸金庫を利用している場合、遺言書にその貸金庫の開扉権限を遺言執行者に付与する旨を記載しておけば、遺言執行者の権限としてその貸金庫の開扉ができ、相続人全員の協力を求める必要はありません。
法律専門家が遺言書作成を支援していれば、貸金庫がある場合は注意が必要ですよ、というアドバイスはしたと思いますが
公証人がうっかり忘れていたのか、遺言者があえて貸金庫のことを書かなかったのか。
どっちかだと思いますが、遺言者が亡くなられていては真相はわかりません。
貸金庫のある方、注意してください。
ところで、公証人でも私でも基本的にご相談者が仰られたことに従って、遺言書の文案を作成します。
なので、ご相談者が言わないことは文案にしようがありません。
例えば、
「預金をすべて村瀬なおひとに相続させる」
と遺言書を作りたいと言われれば、その通りの文案を作ります。
その場合に、私が「預金の他に財産ないですか?」と聞くことはまずないと思います。
「遺言書に書いてないことは、相続人のみなさんが話し合って手続してもらわないといけないですよ」
くらいはお話しますけど。
そんな私が「こんな文章入れたらどうですかね」とアドバイスするのは「補充遺言」です
補充遺言とは
遺言中に記載した推定相続人や受遺者が、遺言者より先に死亡すると、その部分については無効になってしまいます。
その場合に備えて、推定相続人や受遺者が遺言者より先に死亡した場合の遺言(補充遺言という)入れておけば、再度遺言書を作り直す必要がありません。
例
遺言者は、妻花子が遺言者の相続開始以前に死亡した場合には、妻に相続させるとした財産を妻の甥である乙川三郎に遺贈する。
遺言書で親から子へ財産を相続させようと思っていて、子が親より先に亡くなってしまう場合もある。
そんな時は遺言書を書き直せば良いのですが、書き直そうと思ったら認知症になってしまっていた。
そんなケースでのご相談が実際にあったので、それ以来「補充遺言」の提案をしています。
遺言書は素人の方でも作成できますが、法律専門家の支援があればいろいろな知恵をもらえます。
「貸金庫はやっかい」とか「補充遺言」なんて素人の方では分かりませんよね。